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2019.07.22

ラニー・ノーズ

Wataru Sato

Director
Planner

お会いしたことがある方はご存知だと思いますが、僕は慢性的な鼻炎持ちです。「鼻詰まってるね。風邪?」としょっちゅう聞かれますが、デフォルトで鼻声なので金輪際そのような絡みはしてこないでください。ということで今回は鼻水の話をしようと思います。ブログで鼻水の話かよ、汚ねーなおい、読む気失せるじゃないのよ、と思われる方もいらっしゃるでしょう。安心してください。僕は誰よりもオチにこだわる演出家です。最後に素晴らしいエンディングをご用意しております。

仙台の冬は極寒です。中3の1月、受験勉強に励んでいる僕の鼻からはとんでもない量の鼻水が流れ出ていました。年じゅう鼻水が出ている僕ですが、冬の鼻水の量はレベルが違います。普通の鼻炎の方でも、鼻をかんだら鼻水は10分くらい休憩してくれるはずです。でも僕の鼻水は休むことを知りません。鼻をかんだ瞬間、間髪入れずに次の鼻水が流れ出てきます。1192つくろう鎌倉幕府なんて書く暇さえ与えてくれません。ティッシュを丸めて鼻に詰めればいいのでは?と非常に甘い考えを持った方もいるのではないでしょうか。皆さんは見たことがありますでしょうか。2つの鼻の穴に詰められたティッシュが鼻水の勢いによってダムが決壊するように一瞬で唇まで流されるさまを。そして僕にとっての、受験戦争ならぬ、鼻水戦争が始まったのです。

鼻水に耐える日々が続いたある日、僕は考えたのです。流れ出る鼻水をいちいちティッシュで拭う行為こそが、実は鼻水の思うツボになってはいないだろうか。ティッシュもタダではありません。ここはあえて抵抗しないでみたら、鼻水も意表をつかれてびっくりするのではないかと。とはいえそのままノートの上に垂れ流すこともできません。僕は引き出しから黒のプラスチック製の筆箱を取り出しました。だいぶ大きめで、深さも充分です。僕はノートに書く体勢になって、机の手前側にそれを置きました。筆箱がちょうど胸とノートの間に入り、ベストポジションです。これで1192つくろう鎌倉幕府と書きながら必然的に鼻水が筆箱に直行してくれます。成績は悪かったのですが、このアイデアを思いついた自分を天才だと思いました。

筆箱はあっという間に鼻水でいっぱいになりました。ただ、これだけでは僕を苦しめ続けた鼻水に対する復讐心は満たされません。僕は筆箱に蓋をして、再び引き出しの中に戻しました。そして壁に貼ってあったカレンダーの10月1日の欄に「鼻水解放」と記しました。10ヶ月の禁固刑です。罪を犯した者は当然刑務所に入らなければなりません。

数ヶ月後の高校受験、僕は第一志望の高校に落ちました。全部鼻水のせいです。怒りを鼻水にぶつけたい気持ちでいっぱいでしたが、引き出しの取っ手に手をかけるも、引くのは我慢しました。10ヶ月の刑を終えるまで、鼻水に光を浴びせるわけにはいきません。

その日はとても気持ちのいい秋晴れでした。鼻水の出所を祝うかのように。僕は起床後すぐに勉強机に向かい、引き出しから筆箱を取り出しました。怒りから起こした行動だったにせよ、10ヶ月間筆箱の中に閉じ込められた鼻水がどういう形態になっているのか、ものすごくこわい気持ちだったのを今でも覚えています。僕は恐る恐る筆箱の蓋を開けました。

しばらく放心状態でした。そこに鼻水の姿はありませんでした。でも脱獄したわけではありません。正確には、鼻水としては存在していませんでした。目を疑うような神秘的な世界が広がっていたのです。筆箱の内側全面が、美しい結晶で包まれていたのです。分かりやすく言うと、雪印のロゴが全面をコーティングしていたのです。たまたまベースが黒だったこともあり、白い結晶が絶妙なコントラストで浮き上がっていました。現代だったらインスタ映え間違いなしです。いいね1万超えでしょう。あんなに汚らしかった鼻水が10ヶ月の時を経て真っ暗闇の中で奇跡的な化学反応を起こし、美しい結晶へと形を変えていたのです。いや、そもそも鼻水は汚かったのでしょうか。僕はその幻想的な光景を前に、長年鼻水を恨み続けてきた自分を恥じました。そして鼻水と一生仲良く付き合っていくことを心に誓ったのです。 

ちなみに鼻水は英語にするとrunny nose(ラニー・ノーズ)だそうです。メジャーリーグの首位打者っぽい響きですね。

次回は、気の強さでは右に出る者がいない吉村瞳さんです。